待ち合わせをして、ヤンさん運転の乗用車で帰りました。帰りもアイと並んで後部座席に座りました。街では「最後の水かけ」をしている場所もあります。シーロム通りは深夜になっても、ピックアップトラックなどで渋滞していました。私たちの車の前で、1台のトゥクトゥクに10人以上の若者が乗り込んでバカ騒ぎしています。彼らがとても楽しそうなので、私は懲りもせずまたトゥクトゥクに乗りたくなりました。
トラックの荷台に乗っていたイケメン君の1人と目が合ったので窓越しに手を振ると、イケメン君を先頭に大勢の若者たちに車の周りを取り囲まれてしまいました。彼らは窓を叩きながら、「窓を開けてー!」と叫んでいます。ヤンさん夫妻は
「ミナさん、どんなことがあっても窓を開けてはダメよ。」と交互にしつこいくらいに繰り返します。
バカではないので「窓を開ければ、車内がずぶ濡れにされてしまう」ことは理解できます。ドアを開けて、私だけ車から下りようかと思いました。奥様に私の考えたことが通じたのでしょうか?「ドアもあけちゃ、ダメよ!」と奥様が叫びました。私の着ているピンク色の民族衣装は、まったく濡れも汚れもしていません。インナーからすべてピンクのシルクでオシャレに極めているので、このまま濡れずにホテルに帰るのはもったいないです(笑)。
アイも濡れてもいいように、紺色の民族衣装の下に白のビキニの水着を着こんでいます。アイはこの衣装でかなり汗をかいたので、そろそろ濡れ時だと思っているようです。アイは身体全体を使って、私に抱きついてきました。先ほどから私の両腕は、アイの両腕でしっかりと抱きかかえられています。私の手を握るアイの手に力が加わり、とても汗ばんでいます。アイの顔も紅潮して、汗が浮かんでいます。私はアイも興奮して下車したくなったのだと思って、「アイも下りたいの?一緒にトゥクトゥクに乗ろうか?」と耳元で尋ねました。
すると、アイは驚いて「グェッ!」と蛙が踏み潰されたような声を発しました。
「何を言っているのよ!ミナが窓を開けたりしないように、ミナの手を抑えているのよ!」と叫びました。
私はトンだ勘違いをしていました(笑)アイは、興奮して私に抱きついたのではなかったのです。私が車の窓もドアも開けないので、集まった若者たちは怒ったのでしょうか?手のひらや指で、白い粉を車の窓ガラス全面に塗りこみました。目潰し作戦のようです。一瞬は、まったく外の景色が見えなくなりました。
しかし、ヤンさんがワイパーとウィンドーウォッシャー液のボタンを操作すると、運転席の窓ガラスはすぐに見えるようになりました。それ以外の窓にも周辺から水が飛んできて粉が洗い流されるので、しばらくすると粉の薄い部分から外の風景を観察できるようになりました。道路の前方を塞いでいたトゥクトゥクが出発したので、車が動き始めました。その時、歩道でビデオを撮影している夏が好きさんが見えました。たぶん、私だけしか気がつかなかったと思います。
車は100mほど通りすぎて、渋滞で再び減速しました。アイに「今、夏が好きさんがいたの。やっぱり、今トゥクトゥクに乗りたくなっちゃった。私はここで下車するので、後はよろしく。」と耳元で小声で伝えると、都合の良いことに前方に営業中のコンビニがありました。ヤンさん夫妻に「コンビニで買い物があるので、ここで降ろしてください。ホテルまで近いので、後は歩いて帰ります。」と言いました。
奥様は「コンビニに行きたいのならば、こんな水かけしている場所じゃない店に案内してあげるわ。」と親切で言ってくれます。私が「水をかけられながら、歩いて帰りたいんです。」と言うと、奥様も理解されたようで「車内を濡らさないように注意して、乗り降りしなさい。」と言ってくれました。下車の際、車内が濡れないようにしないといけません。
慎重にドアを開けました。
周囲の人たちは私に視線を集中させていますが、幸いだれも水をかけてきませんでした。慌てることとなく優雅に降車できました。無事にドアを閉めて、アイがドアをロックするのを確認しました。外からは車内を見ようとしても、側面の窓ガラスが粉で真っ白で中がまったく見えません。車の前方に回り、ヤンさん夫妻に深くお辞儀をしました。
奥様は「何をしてるの。早く行きなさい。」と身振り手振りで指示します。若者たちが、私の周りに集まってきました。私は、ゆっくりとコンビニまで歩きました。無事に濡れずに、コンビニに入れました。でも、買いたい商品はありません(笑)。何かを買うと、荷物になってしまいます。店内からヤンさんの車を観察すると、ハザードランプを点滅させて停車しています。どうやら、私を待ってくれているようです。
ヤンさんの車の前方まで戻って車内を見ると、ビニールシートが用意されていました。私が濡れても座席のシートが汚れないように、奥様が前もって準備されたのでしょう。奥様は「何をしてるの。早く乗りなさい。」と言っています。私はジェスチャーで「あっち(ホテルと反対の方向)へ歩いて行きたいのです。」と伝えました。アイもヤンさん夫妻に説得してくれているようで、やっと奥様も了解されたようです。私はヤンさん夫妻に最敬礼して、コンビニに戻りました。やっと、ヤンさんの車が出発してくれました。
だいぶ時間が経ってしまいました。夏が好きさんは、まだ同じ場所にいるでしょうか?少し不安になってきました。まだ私は濡れていません。夏が好きさんが「濡れていない綺麗な衣装が濡れるのを見るのが好きです」と言っているのを思い出しました。せっかくなので、濡れていない民族衣装姿を夏が好きさんに見せてあげたいです。コンビニの前の歩道は、若い男性たちで大混雑状態です。私が店を出ると、全員が私の方を見つめました。私の周囲は半径1.5mほどの空間がありますが、その外側は大混雑しています。
時々、水鉄砲などを持った男性が飛びきりの笑顔で近づいてきます。優しく微笑んで頷いてあげたいのですが、「ごめんなさい」とお断りをします。何度もワイ(合掌)してお願いする男性もいますが、その度ごとに「ごめんなさい」と丁寧にワイを返しました。周りが混雑しているので速く歩けませんが、私が南の方向に行きたそうにすると、前方の人たちは道を空けてくれました。周囲の人たちはずぶ濡れなので、身体がぶつかっても濡れてしまいます。
人とぶつかったりしないように、ゆっくりと慎重に歩きました。200mほど行くと、夏が好きさんが見えました。その辺りは、水かけの最激戦地なので濡れずに近づきにくい状態です。夏が好きさんは車道のバイクの女性を撮影していて、私に気づきません。
仕方がないので「夏が好きさーん!」と大声で叫びました。
突然私が叫んだので、周囲の男性たちを驚かせてしまいました。群集の先頭の1人が後ずさりしようとして、後ろ向きに倒れて、5人ほど将棋倒しになりました。幸いだれにも怪我はなかったようです。夏が好きさんは周囲をキョロキョロ見回していましたが、私を見つけると、群集をかきわけて私に近づこうとしました。しかし、私を取り囲む若者たちの壁になかなか通してもらえません。
以上 文章提供 投手ミナ 編集 テツロウ
|